約 1,076,941 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/631.html
「くそ…左腕の『部分』はもう使い物にならねぇな…」 言いつつ左腕を見るが、左手首から肩にかけて完全に焼き焦げ明らかに再起不能である。 …もっとも再起不能なのはスーツであり左腕は当然再起可能だがやはり傷は重い。 左腕の焼き焦げた部分を引き千切る。どのみちもう使えないのだから破った方が早い。 破った下は燦々たるものだ。特に電流が奔った近くは焼き焦げた布に爛れた皮膚がヘバリ付き持っていかれている。Lv3の火傷は伊達じゃなあい! 「兄貴ィ…大丈夫か?」 「…痛そう」 さすがの一人+一振りも心配そうに怪我を見るが、『たとえ腕を飛ばされようが脚をもがれようともなッ!』が信条のプロシュートだ。当然この程度で参ったりはしない。 手早く荷物から布を取り出し腕に巻きつけ、さらにその上にタバサが作った氷を当てさらに布を巻く。応急的なものだがやらないよりはマシだ。 だが、やはり直触りを発動したというのに白仮面の男が老化しないというのは納得がいかない。 試しにグレイトフル・デッドでデルフリンガーの刀身を掴み直触りを仕掛けてみる。 「GIYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!NO!兄貴!NO!それで掴まれると老化すんだろォーーーーーー!?」 ズキュン! 「終わった…さよなら…俺の活躍シーン………ってあれ…なんともねぇ」 「生物じゃあないんだから当然か…だとするとあの仮面はどういう事だ…?ゴーレムってわけでもないだろうしな」 「自我を持つゴーレムならいるかもしれねぇが、魔法を使ってきたからにはありゃ確実に人だぜ兄貴」 こればかりは幾ら考えても答えが見付からない。無機物でないなら生物。生物なら老化する。だがあの仮面は老化しなかった。 「…浮いてる」 考えが纏まらずデルフリンガーを掴んだままだがスタンドが見えないタバサが不思議そうにそれを見る。 「これ他のヤツには見えてないのか?」 「少なくともオレの世界じゃあ同じ能力を持つ『スタンド使い』以外は見る事ができないな。物質と一体化してるやつは別だが」 「…兄貴がいた場所はこんな、上半身の下から触手が出て体中に目があって紫色のヤツばっかか?」 「スタンド使いによって違う。人型、群体、まぁ色々ある。」 だが『上半身の下から触手が出て体中に目があって紫色』、これを聞いた瞬間タバサの顔色が青くなる。 『雪風』のタバサ:嫌いなもの ― 幽霊 多分見えていたら気絶してる。タバ茶が生産されるかどうかは各人の想像に任せるッ! 「オメーと同じで意思を持つ刀のスタンドってのもあったらしいな。今はどなってるか知らねーが」 もちろん我らがアヌビスの事であり、一説によると折られた刀身を再加工されあるスーパーコックの包丁になっているらしいとか。 顔が青いタバサ尻目にスタンド談義をデルフリンガーにしている間にシルフィードが桟橋の上空に着く。 だが眼前に写るのは一本の大樹。そしてその枝の先にぶら下がるようにして船が係留されていた。 「………ギアッチョがここ来たらキレっぱなしだぜ?おい」 もはや何も言うまい。ここまで来たら何でもアリだとそう思う。 シルフィードが高度を下げるとプロシュートが飛び降り、アルビオン行きの船の場所を適当な船員を探し出し問いただす。 「アルビオンってとこに行く船ってのはどれだ?」 「さっき出港したばか…グェェ!」 そう言われると同時に船員の首を思いっきり掴んでいたッ! 「どういうこった…?朝にならないと出港できねーって聞いたぜ…?」 ギリギリと不幸な船員の首を締め付ける。その手から脱しようともがくが離れない。尋常ならざる力だった。 「…がッ!…貴族…が…風石の分を…補う……と言って…出港が早まった……」 そう聞くと首から手を離す。 「チッ…仕方ねーな」 それだけ確認するとシルフィードの元へ戻る。後ろで船員が悪態を付いてるのは気にしない。 「船はもう出たようだな…。こいつで後を追えるか?」 コクリとタバサが頷き手早くシルフィードに乗り込み上昇する。 ただシルフィードだけなら船を上回る速度は出せるが人が乗っている以上振り落とされない程度の速度で追跡する事になる。船の速度と同程度というとこだ。 そのまま気流に乗りアルビオンへと飛行を開始する。 数時間経過したが何もする事は無い。正直言えば暇だった。 タバサの方はさすがに深夜というだけあり眠そうにしていたが、巡航速度とはいえかなりの速度だ。シルフィードの上で下手に寝れば落ちかねない。 「……落ちねーようにしといてやるから寝てろ。肝心な時に戦力外になられても厄介なだけだ」 暗殺という仕事柄1日や2日の徹夜など別にどうという事は無い。問題なのは暇な事だけだ。グレイトフル・デッドでタバサを支えるが 支えられている方は『上半身の下から触手が出て体中に目があって紫色』という幽霊にも近いものという認識が頭から離れないらしく若干顔を青くしているが やはり限界点がきているのかそのまま眠り込んだ。 陽光でタバサが目を覚ますが『上半身の下から触手が出て体中に目があって紫色』の 『グレイトフル・デッドのような幽霊』に追い回されていた夢を見たためまだ顔が青かった。 プロシュートの方は昼食のパン片手に興味深そーに前方に巨大な大陸を見ている。 昨日『何でもアリ』と思ったばかりだが即日撤回だ。さすがにこの巨大な質量が中空に浮いている事には驚嘆せざるをえない。 視界が良好になり前方がよく見渡せるようになっているが、桟橋で見た形の船が一回り大きい黒い船に曳航される形で進んでいるのを見付けた。 「追いついたみたいだが…あの黒い船はなんだ?」 「旗が揚ってない……十中八九『空賊』」 「拿捕されたってわけか。…メンドクセーな。黒い方の上にいけるか?」 タバサが2~3シルフィードに呟くと黒い船の甲板上に相対速度を合わせるように飛行する。 「何かあったらすぐ退いて知らせに行け」 それだけ言うとデルフリンガーを掴み甲板へと飛び降りた。 (広域老化は使えねーな。列車と違って操舵手を老化させれば墜落は確実か。左腕がこの状態だと右手塞いだまま直に拘るのは逆に危険だな) 5分程時間をバイツァ・ダストしてこちら捕虜三人組 空賊船の頭に引き合わされたのだが問答を繰り返しているうちに話が意外な方向に発展していた。 「トリステインの貴族は気ばかりが強くてどうしようもないな……だがそれがいい」 頭がそう言い放ち笑いながら立ち上がる。ルイズ達はこの豹変っぷりに戸惑うだけだ。 「失礼した。名乗らせて頂く。アルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官…もっとも本艦『イーグル』号しか存在しない無力な艦隊だが…」 言いながらカツラと眼帯を取り付け髭を剥ぎ堂々と名乗った。 「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・デューダーだ」 それを見たルイズは半ば放心している。キュルケに至っては何時もの悪い虫が出たのか口説こうという気持ちが鎌首を擡げているが さすがにこの状況下では空気を読まざるをえない。唯一ワルドのみ興味深そうに皇太子を見据えている。 「その顔だと空賊風情に身をやつしているのか?というところか。敵の補給線を断つのは戦いの基本 それに奪った物資がこちらの補給物資にもなる。空賊を装ったゲリラ活動というところかな」 依然として呆けているルイズに説明するようにウェールズが言うが当のルイズはまだ呆けたように突っ立っている。 「トリステイン王国魔法衛士隊、グフィフォン隊隊長ワルド子爵。アンリエッタ姫殿下より密書を言付かって参りました」 こんな所で目的の人物に会えると思っておらずテンパっていたルイズに変わりワルドがそう言った。 「そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢とその友人アンハルツ・ツェルプストー嬢にございます」 だが、ルイズが確認の為に預かった水のルビーとウェールズが付けている風のルビーを近付けた虹色の光が振りまかれた時部屋の中に兵士が飛び込んできた。 「し、失礼します!」 「今、大使殿達と大事な話をしているんだが何かあったのか?」 「申し訳ありません!ですが…て、敵襲です!」 それを聞いた瞬間ウェールズの目が鋭くなる。 「敵戦力は?」 「敵兵力は…唯一名であります!」 「一人だと…?余程の手練という事か…!」 敵船に乗り込み一人で白兵戦を仕掛けてくるという事は空賊を相手にした戦い方ではない。撃沈さえすればいいのだ。 一人という事はスクウェアクラスのメイジ。しかも目的は皇太子である我が身の捕縛。瞬時にウェールズはそう判断した。 「大使殿、済まない、敵の目的が私であるかもしれない以上ここが戦場になるかもしれない」 「わたしも薄汚い反乱軍に屈したりいたしません。手伝わせて頂きますわ」 「いいぞルイズ。さすがは僕の花嫁だ」 「一人で襲撃してくるだなんて随分とナメられたもんじゃない」 それだけ言うとルイズ、ワルド、キュルケが返してもらった杖を握った。 一方こちら甲板に飛び降りたプロシュートだが当然の如く船員から手厚い歓迎を受けていた。 もっとも相手は一般兵であり印の効果が発動しているプロシュートの相手にはならずほぼ一方的に攻撃を与えているのだが。 「兄貴ィ!こいつら止め刺さなくてもいいのか!?」 「再起不能にすれば問題ねぇからなッ!」 右の敵を右手に持ったデルフリンガーで斬りつけ左の敵はグレイトフル・デッドで殴り抜ける。負傷しているとはいえ殴るだけなら問題はない。 船員を老化させ船長室の場所を聞き出す。大抵の集団は頭を押さえればそれでカタが付く。 稀にナンバー2が頭の座を狙い反逆しようとするがそれはそれで問題無い。その場合はナンバー1を解放すれば後は勝手に自壊してくれる。 狭い通路と細い階段を駆け上がり後甲板にある船長室へ向かう。 途中メイジにも遭遇したが通路の細さを利用し船員を盾にしつつ殴り抜け排除する。 船長室とおぼしき扉の近くまで行くがさっき吹っ飛ばしたメイジの一人が部屋の中に駆け込もうとしている。当然それを見逃す程甘くはない。 「逃がしはしないッ!」 その言葉と同時にグレイトフル・デッドで頭を思いっきり掴み、そのままの勢いでドアを蹴破った。 「早い…もう来たみたいだな…!」 時間が経つにつれ騒音と悲鳴が大きくなり当然部屋の中の四人もそれに比例し緊張感が高まる。 敵船に一人で乗り込みそれを打ち破れる程の敵。一般的な価値観からすればそれ相応の手練が相手という事になる。 「…がし……ないッ!」 だがルイズの耳に微かだが声が聞こえた。 そしてその声を聞いた瞬間この間見た夢の内容がフラッシュバックされる。 『そ、それじゃあ精霊様!一つだけ聞きたい事があります! わたくし…使い魔が問題を起こし続け酷い有様です…この先ずっと問題を起こす使い魔なのでしょうか?』 『もぐ、もぐもぐ…まーねぇ。ブフゥ~~』 ディ・モールト嫌な予感がし自分の顔が青ざめていくのが理解できたッ! ドグシャァアアア その音と共にドアが蹴破られルイズ以外の全員が身構えるが次にその場の全員が見た物は――― 右手にデルフリンガーを持ち左腕に布を巻きつけその手にもがいているメイジの頭を無造作に掴んだ御存知プロシュート兄貴だッ! 「オレとしては…手早く見つかったから楽でいいんだが、この場合はどうすりゃあいいんだ?」 若干拍子抜けしたような声でそう言い放つが、ルイズとキュルケは半分放心しているが もちろんそんな事しらないウェールズの方は殺る気満々で杖を構えている。 「貴様…貴族派か!」 状況がどうあれ自分に杖を向けているヤツなら排除対象だ。 そう判断し魔法の詠唱が終えられるまでに距離を詰めグレイトフル・デッドで杖を奪う。 そのまま足を払い、背を取り平伏させ頭を踏みつけつつ頭の先にデルフリンガーの刃を当てながら 「攻撃してくるって事は…敵だなテメー」 『敵か!敵かッ!敵かッ!敵かッ!くらえ!くらえッ!おらっ!おらっ!おらっ!!』と言わんばかりに蹴りを入れようとするが 一瞬早く正気に返ったルイズに止められた。 「で、でで殿下に何やってんのよ!このバカ使い魔ーーーーーーッ!!」 「殿下…?説明しろ。空賊の船に何でそいつが乗ってんだ」 その後プロシュートにこの船が空賊を装った王軍の船であるという事を説明するのに10分 ウェールズにプロシュートが自分の使い魔で主人の乗っている船が空賊に拿捕されたと思いこの船を襲撃したと説明するのに15分 甲板上空で浮いてるタバサを呼ぶのに7分。計32分を要する事になる。 「ラ・ヴァリエール嬢の使い魔はかなりの使い手のようだな…単身で軍船に乗り込んでくるとは」 苦笑いしつつさっきまで踏まれていた後頭部をさすりながらプロシュートを見る。 「…申し上げありません殿下…ってあんたも謝りなさいよ!」 「知ったことか」 ルイズは土下座せんばかりに頭を下げているがプロシュートの方は意にも介していない。 「君のような猛者が我が親衛隊に10人ばかりいれば、今日のような惨めな戦局になってはいなかっただろうに。してその密書とやらは?」 ルイズが一礼し手紙を手渡すとウェールズが慎重に封を開けそれを読みはじめる。 真剣な顔で手紙を読んでいたウェールズが、そのうちに顔を上げルイズ達に問うようにして聞いてきた。 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……、従妹は…」 ワルドは無言で頭を下げ、肯定の意を表しすと再び視線を手紙に戻すと一文字一文字噛み締めるかのように読み、それを最後の一行まで終えると、微笑んだ。 「了解した。姫の望みは私の望みだ。…だが今すぐ手紙を返したいとこなのだが、今手元にはない。 万が一この船が拿捕されでもして手紙が貴族派に渡っては面倒な事になるからね。多少面倒だがニューカッスルまで御足労願いたい」 雲に紛れるようにして海岸線を進むがその道中、プロシュートがスーツの左腕を失い布を巻いている事に気付いた。 現れると同時にウェールズの頭を踏ん付けていた事にテンパって今まで気付かなかったのだ。 「…どうしたのよ?それ」 「大したこたぁねー」 「あんな大事そうにしてた服を破ったなんて事が大した事ないわけないじゃない。見せなさい!」 プロシュートが舌打ちしながら布を外す。 初期の段階に氷で冷やしていたため水ぶくれこそ起こしていないが手首から肩にかけてミミズ腫れが続いている。 「…どうしたのよこの傷!」 「オレの不始末だ。オメーが気にする事じゃあねぇ」 「『ライトニング・クラウド』か…本来なら命を奪う魔法だが、よく命があったものだな」 傷の正体をワルドが明かすが一つプロシュートに疑念が生まれる。 (こいつ…どうしてオレが食らった魔法の名前が分かった…?雷を生む魔法がそれしかないっつーのなら分かなくもないが) 「…ラ・ロシェールの船に乗るまでワルドはオメーの近くに居たのか?」 小声でワルドに聞こえないようにしてルイズに問う。 「どうだっていいじゃないそんな事。今は傷の手当が先よ…!」 「いいから答えろ」 「…ずっと側に居たわよ。これで満足?満足したなら治療を受けてちょうだい…」 (…考えすぎか。そもそもオレが一階に降りるまでの僅かな時間にゴーレムの肩から酒場まで行けるわけねーしな) ルイズが水のメイジを探す。…が水のメイジは居るには居たがプロシュートが思いっきり吹っ飛ばし行動不能に追い込んだため治療不可である。 したがって本格的治療はニューカッスルに着くまで待たねばならなかった。 プロシュート兄貴 ― スーツ左腕部廃棄 ←To be continued 戻る< 目次 続く
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1803.html
「…で、俺はなにをすればいいんだ?」 あぐらをかく使い魔。 生徒たちが好き勝手な方向にクモの子を散らすように逃げ去っていった中、 歩いて少女の使い魔の部屋に到着したワムウと少女。 ワムウは、部屋に向かうまで真昼間であるはずの今、遮蔽物もなしに歩けることを不思議に思った。 しかし、それ以上に不思議に思ったのはッ! (月がッ!月が2つあるッ!…どういうことだ?太陽の光も少し体の調子を下げる程度で十分に動ける… 長い間直射を浴びていればダメージを受けるだろうが…風のプロテクターを使うよりもスタミナは安上がりだな…… だが、油断はできんな…シーザーのやったように、鏡などで太陽の光を集中させれば、十分致命傷になりうる… 天敵である波紋使いが今のところ見当たらん…そのためにも唯一の『天敵』である太陽光…もっとも違う世界であるようだし 太陽とは呼ばないのかもしれないが…太陽光には十分気をつけなければいけないな…) 「さっきも言ったように…使い魔は主人の目となり耳となる能力を与えられるはずなんだけど…なにも見えないし聞こえないわね…… 次に使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。たとえば秘薬とかね。あんたどこの田舎に居たかしらないけど亜人なんだから そういうの詳しくないの?」 「そもそもここはどこだ?それすらわかっていない…魔法学校などと言っていたな、ここはスイスではないのか?」 「スイス?そんなところ聞いたことないわ。トリステイン魔法学院くらいは知ってるわよね?」 「そもそも魔法自体俺は知らん。俺の知らない土地で人間は二〇〇〇年の間にそこまで成長していたのか? ……ああ、ここは違う世界だったな、まあ似たようなものだろう。」 一呼吸空く。 「あ、あんた?なに言ってるの?違う世界から来て、しかも二〇〇〇年前から生きてるなんて言わないわよね?」 「正確には二〇〇〇年前から眠っていたというところか。念のために聞いておくがここは『地球』という言葉を知らないよな? もしくは『Tellus』『Earth』…それに似たような言葉でも構わん。」 「チキュウ?それがあんたのいた国?聞いたことないわね。大体二〇〇〇年間寝てて、ご飯とかどうしてたのよ?他にもいろいろ 生きてく上で必要あることあるでしょ?さすがに私でもそんな嘘にひっかからないわよ。」 「石と同化して二〇〇〇年間眠っていた。食料も二〇〇〇年程度いらん…が、こちらに来てなにも食べていないな。 お前ををまず食ってみようか?」 しばしの沈黙。 「きゃああああァアアアアアアーーッ!!」 大声で悲鳴をあげる。 窓を思いっきりあけ逃げようとする少女。 「冗談だ、それほど騒ぐな」 「冗談って、あ、あんた二〇〇〇年眠ってたってのも?」 「それは本当だ。人間を食うこともな」 「きゃああああァアアアアアアーーッ!!」 二度目の悲鳴。先ほどの悲鳴より強いようだ。 「ルイズッ!うるさいわよッ!」 悲鳴を聞きつけたのか、赤髪のグラマーな女性が彼女の部屋に怒鳴り込んでくる。 「ひとりで逃げるのよキュルケ。あんたを逃がすのは私であり……そこのサラマンダーであり、あたしの魔法 爆発… 生きのびるのよ あんたは『希望』!来いッ!ワムウ!」 「あ、あんた、何を言ってるのよ…脳みそがクソになったの?」 「……なにを勘違いしているんだ。お前の使い魔になったといっただろう。起きている間でも二〇〇〇年やそこら人間を食わなくても済む。 他の…人間どもの一般的な食事があればな」 「な、なんだ……じゃあやっぱり私の使い魔で私を食べたりはしないのね」 「うむ。少なくともお前はとりあえずしばらくの間は食わないし、食う価値も今のところはなさそうだ」 「やっぱ逃げてええええキュルケェえええええッ!」 もう既に赤髪の女は居なかった。 * * * 「先ほどの女はなんだ?そういえばお前の名前も聞いていなかったが。ルイズというのはわかったがな」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、由緒正しきヴァリエール家の三女よ」 「さっきの女、キュルケとやらは?」 「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。忌々しきツェルプストー家の尻軽女よ。 ああ、憎たらしい!あんな女逃がそうとなんかしなきゃよかったわ。とっくのとうにいなくなってるしね……」 顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。 「ツェルプストー家になにか因縁でもあるのか?」 「数え切れないほどあるわよ!キュルケのひいひいひいひいおじいさんのツェプルストーはわたしのひいひいひいおじいさんの恋人を 奪ったのよ!今から二百年前に!それから、わたしのひいひいおじいさんは……」 「人間どものつまらん話など聞く必要はない。それより飯だ。まさか使い魔にはないとは言わないよな?」 先ほどの『食料は人間』という話を思い出す。 顔が青ざめていき、高ぶっていた心は一気に冷めていった。 彼女の口の動力機関はぴたっと止まった。 「え、ええ。食堂はこっちよ。」 (数段ランク落ちたものを食べさせて威厳を見せつけようと思っていたのに、こんなんじゃそんなものあげるにあげられないじゃないッ! はあ、私なにを呼び出しちゃったのかしら……い、いえ!ポジティブに考えるのよ!『ゼロ』だってバカにしてた奴らを追い払うくらいの…) 「どうした、行くんじゃないのか?」 ワムウに声をかけられ、思考は中断する。 「ひゃっ、……は、はい。」 寮の出口へ2人は歩き出した。 * * * 「うーむ、なんじゃあの使い魔は。あんなパワーを持った亜人みたことないぞい……多少鈍っているとはいえ、コルベール君、君が 本気を出して放ったファイヤーボールを片手で止めるとは……」 老人がいすの上で唸る。 「しかも、現状を一瞬で理解したことから、私たち以上といっても過言ではない判断力を持っているといっていいでしょう…… 特に……戦闘の際の判断力は、私が見てきた軍人たちの中から探してもあれほどの人間は居ませんでした。」 髪の薄い男性も唸る。 「で、君が調べたあのルーンは間違いないのかね?」 「はい、私も何度も確かめましたが間違いないでしょう。喜ぶべきなのか困るべきなのか……」 「やれやれ、よりにもよって伝説の使い魔ガンダールヴとはな…」 老人はため息をつく。 「やれやれ、ミス・ヴァリエールもやっかいな者を呼び出したようじゃわい…」 外からノック音が聞こえる。 息を切らした様子の緑色の髪の女性が入ってくる。 「ミス・ロングビル、そんなに慌てていてどうしたんじゃ?そんなんだから婚期を逃すんじゃよ」 「婚期は関係ありません!そんなことより、ヴェストリの広場で決闘がおきて大騒ぎになっています! 止めに入った教師たちも、生徒たちに邪魔されて、止めるに止められないようです」 「なんじゃ、そんなことか暇を持て余した貴族ほど、性質の悪い生き物はおらんわい。で、誰が暴れておるんだね?」 「一人はギーシュ・ド・グラモン」 「あのグラモンのところのバカ息子か。オヤジも色の道では剛の者じゃったが、息子も輪をかけて女好きじゃ。 おおかた女の子のとりあいじゃろう。相手は誰じゃ?」 「そ、それが……ミス・ヴァリエールの使い魔です…」 老人は二回目のため息をついた。 「やれやれ、今日は厄日かのう……」 * * * 数十分前の食堂。 ややにぎわっており、生徒たちであふれている。給仕たちや料理人たちもいそがしそうである。 そこに入っていったルイズとワムウ。 教室での騒ぎを知らない者の一部は好奇の目を向け、知っている者はそそくさと立ち去る、ルイズが座る席から離れる、気づかない振りをするなど 多種多様だが、多くは友人たちとの会話や食事を続けている。 ルイズ達が席について少し経つと料理が二人の前に運ばれてくる。 運んできたメイドは、ワムウの顔に少しおびえたのか、目の前に立った瞬間怯んだものの、何事もなかったかのように仕事を再開した。 「なあ、ギーシュ、お前、今誰とつきあってるんだよ!」 「誰が恋人なんだギーシュ!」 気障な少年が数人の友人に囲まれて話をしていた。 「つきあう?僕にそのような特定の女性は居ないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね。」 今日も絶好調、気障なセリフが全快だッ! 友人の一人がギーシュのポケットの中のふくらみに気が付く。 「なあギーシュ、お前のポケットに入ってるものはなんだ?見せてみろよ」 「や、こ、これはだめだって!」 「いいじゃねえか。見られて困るものじゃないだろ?困るならなにか教えろよ」 「そ、それは……」 友人たちに迫られて後ずさりする。 ギーシュには幸運が二つあった! 友人が迫るスピードが遅かったために彼の影を踏むときにギリギリまで彼から遠くに居たこと! そして! 幸いにも回し蹴りが下半身に行ったこと! そのどちらの幸運がなかったとしても彼の人生は老化して首の骨を折られる以上の悲しい死因だったであろう。しかし彼はその大きな幸運より 目先の不運を恨んだのだった。 「うわらばッ!」 容器が割れる甲高い音と、彼の断末魔に似た声がする。 「な、なにしてるのよワムウ!」 「すまんな、坊主。俺は影に入られるのが嫌いでな。反射的に攻撃してしまった。まあ生きているようだし次からは気をつけるんだな。」 「お、おいギーシュ、大丈夫か?」 「なにか割れた音がしたけど……あれは!」 「モンモンラシーの香水の入った小壜じゃないか!割れてるけど」 「そうか、ギーシュはモンモンラシーとつきあってたんだな!」 「ああああああ!モンモンラシーからのプレゼントがあああッ!」 その嘆きを無視し食堂を出ようとするワムウに少年、ギーシュは叫び声を突きつける。 「お前!貴族になにをしたかわかっているのかッ!そして、お前が割ったのは僕の最愛の人モンモンラシーからのプレゼント! 謝罪ではすまないぞ!」 「ふむ、ではなにをすればいいんだね?」 ワムウが振り向きギーシュを見据える。 「決闘!それがグラモン家の流儀ィイイイイッ!ヴェストリの広場に来やがれッ!」 /|_________ _ / | | ̄| | | \ TO BE CONTINUED .. | |_| |_| \| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1873.html
「キュルケにしてはなかなか趣味のいい店だったじゃない」 「ルイズにはもったいないくらいの店だったわね」 「なによ、ツェルプストーとヴァリエール、どっちが上かわかってないようね?」 「あら、そんなわかりきったことゼロのルイズでもわかってると思ってたわ」 三頭の馬の横をシルフィードが並んで飛行している。 夕日も沈み、明かりはほとんどない。 故に、学校の明かりがよく見える。 「きゅいきゅい!(翼よ!あれがパリの灯だ!)」 シルフィードが明かりを見つけて鳴く。 「到着」 馬を御者に預け、校庭を横切ろうとする。 「ふう、今日はほんと疲れたわ」 「あんたなんて二回目に負けただけじゃない、一番の功労者はタバサ連れてきた私よ」 「キュルケなんかカード触ってすらいないじゃない!」 「・・・・・・あの、お取り込み中悪いんですがメイドの寮は裏側なので私はここで」 「ああ、うん。わかったわ、楽しかったわよ」 「ええ、私たちもね」 キュルケ達も笑って返事をする。 「そういっていただけると光栄です。それでは、いい夢を」 シエスタは暗闇に消えていった。 「ふぁーあ、私たちもとっとと寝ましょうか」 三人は寮に向かって歩き出す。 「では俺も寝させてもらおうか」 「じゃあね、ワムウおやす…ってもう居ないし」 ワムウは風のように森の方向へ飛び去っていった。 「前から思ってたけど……ルイズ、あなた色々と大丈夫?」 「大丈夫、ってなにが?」 「あんなの使い魔にしてよく平気でいられるわね」 「慣れよ、慣れ」 「だってあんな大男、歩くだけで今みたくドシンドシンって音がしそうじゃ……この音、どっから鳴ってるの?」 どこからか地鳴りのような低い音がする。 「あっちの方から聞こえる」 タバサが宝物庫の方を指す。 「宝物庫の方ね……行ってみましょう」 宝物庫の横に巨大なゴーレムが立っており、壁を殴打していた。 「な、なによあれ!」 ルイズが叫ぶ。 「誰か人が倒れてるわ!」 ゴーレムの横に倒れている人を見つけ、タバサがシルフィードを呼び出す。 「乗って。助けに行く」 全員が飛び乗り、倒れている人影をシルフィードの上に拾い上げる。 「あなたは…オールド・オスマンの秘書のミス・ロングビル?」 「は、はい…あのゴーレムが急にあらわれて、私が近づいたらゴーレムに攻撃されて…… たぶんあれは、あの『土くれのフーケ』に違いないですわ!」 ロングビルはぶるぶると震えていた。体は外気に晒されていたせいか、冷たかった。 「あの『土くれのフーケ』!?ってことは宝物庫の宝を狙ってるに違いないわ!」 そうしてルイズは杖を抜き出し、シルフィードの上からゴーレムを狙って魔法を唱える。 「『ファイヤーボール』!」 しかし狙いから逸れ、宝物庫に穴が空く。 その穴から土くれのフーケとおぼしき人影が入り込む。 「なにやってるのよルイズ!」 シルフィードを穴に近づけようとするがゴーレムが腕を振り回し、近づけない。 そうこうしている内に、人影はなにかをひっつかんだまま再びゴーレムに乗り、校庭を身軽に突っ切っていく。 シルフィードを駆って追いかけるが、校庭の真ん中のあたりで、ゴーレムは崩れ、メイジはいなかった。 * * * 翌朝。 「それで…君達とミス・ロングビルが犯行の現場を見ていたわけだね?」 校長室に呼び出されたルイズ、キュルケ、タバサ。 厳重に管理されていた『破壊の杖』が盗まれたとあって、学校は混乱していた。 「はい、あの校庭にある土の塊が元はゴーレムで…タバサの使い魔で追いかけていたんですが、 ゴーレムが崩れたときにはフーケらしき人物はもういなくて…」 「ああ、なんたることだ!これもミセス・シュヴルーズが当直をしなかったせいだぞ!どう責任をとるんだね!」 昨晩の当直であったミセス・シュヴルーズを教師の一人が追求する。形骸化しているとはいえ、 彼女が一応当直であったのは事実だった。 「これこれ、ミスタ・ギトー君、あまり女性を苛めるでない…それに、幸運が一つある」 もったいぶるようにオールド・オスマンは話を止める。 「オールドオスマン、幸運とは何なんでしょうか?」 ルイズが尋ねる。 「あの『破壊の杖』は使い方が普通の杖に比べ複雑でな、使い方はわしとわしのある友人しか知らん。わしは自衛できるし、 そのもう一人の友人さえ守ればただの棒っきれにすぎん。珍しい形状じゃから売るのも苦労するじゃろうしな」 オホン、と咳をし続ける。 「そして、わしが頼みたいのは……そのもう一人の友人の護衛じゃ、フーケ討伐ならともかく、一見関わりの無い者の 護衛となるとやはり自前でやらねばならない。誰か、名乗りをあげるものはおらんかね?」 教師たちは誰も手を上げない。 オスマンはため息をつく。 「仕方が無い、嫌かもしれんがミスタ・コルベ…」 そんな中三人が話しに割り込む。 「私がやります!」 「やれやれ、ルイズがやるなら私も負けられないわ」 「心配」 コルベール先生が叫ぶ。 「君達はまだ生徒じゃないか!」 「あら、だって誰も出ないんですもの。こんなチャンス、ツェルプストー家の娘として逃せませんわ」 「私もよ!目の前でみすみすと盗まれて、それっきりなんて言えないわ!」 「仕方ない、では頼むとしようか」 それを聞いてすくっとロングビルが立ち上がる。 「オールド・オスマン、念のため御者としてでも私を同行させてください。私もフーケの犯行を目撃した身、 なにもやらないでのうのうとしているなんてできませんわ」 「そうか、ではよろしく頼むぞ。君たちのことは伝書鳩で先方に伝えておく。昼間までに用意しておいてくれ」 「わかりました、この任務、ぜひとも成功させて見せます!杖にかけて!」 オスマンがサラサラと書き上げた手紙を伝書鳩にくくりつける。 空の彼方へ伝書鳩は飛び立って行った。 * * * 一人の男が伝書鳩に気づく。 「む……あれはオスマンのサウェジガーデンではないか!」 鳩についている手紙をとり、水と餌をやる。 「なになに、破壊の杖…なにッ!我が軍の結晶であるパンツァーファウストが盗まれただとッ!」 男は読み進める。 「ふむ、護衛が四人、ルイズ・フランソワーズ……フフ、皮肉なものだな。総統を護衛する役目の俺と武器の使用法が 護衛されるとはな……だが、俺の体ならば護衛などいらんと思うのだがな…まあ可愛い女性が来るというのはそれはそれで嬉しいがな…」 伝書鳩は、再び空へ舞い上がった。 To Be Continued...
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/112.html
フーケの騒動があってから一週間が経ちました いろんな人たちから一目置かれるようになったルイズとドッピオ ルイズはあいかわらず魔法の腕が上がっていないのでフーケの件は使い魔がすべて行ったと周りは思っているようです その所為か決闘を申し込む貴族は殆どいなくなり、ドッピオにとっては平和な日々が続いていました そんな中 「ドッピオ、アンタ芸とかある?」 そんなことを主人から聞かれました 「芸・・・ですか?なんでまた」 いきなりそんなことを聞いてきたルイズに質問で返します 「質問を質問で返さない!・・・まあ、いきなりなのは認めるけど 今度使い魔の品評会があるのよ」 「品評会?・・・そういえば」 最近学院の中で使い魔に芸を教え込む人たちを見たことがありました 「・・・で、何かある?」 「・・・・・・」 この人たちにはスタンドは見えない。ならスタンドを使った芸でもいいかと考え 「・・・うーん」 いざ芸をしろと言われても思い浮かびません 「・・・え?もしかして特に無い?」 「・・・いえ、特に無いってわけじゃないですけど」 スタンド自体の能力は未来予知・・・これを利用した芸といって思いついたのは 「・・・手品なんてどうでしょう?」 「手品?・・・なにが出来るの?」 「そうですね・・・硬貨とかありますか?」 「あるけど・・・」 そういって一枚金貨を取り出します 「表か裏か。右手か左手か。絶対にあてることが出来ます」 「・・・それじゃこれはどっち?」 差し出した両手。ドッピオはエピタフを発動させます 「・・・右手、裏」 「・・・当たってる。でも」 二人が考えることは 「地味ね」 「そうですね」 ドッピオではどうも未来予知を生かしきる芸と言うものが思いつきません 「・・・まあ品評会は明後日だし手品だって変な力使ってやってるんでしょう?」 「そうなんですけど・・・」 「時間には猶予があるしもっとパッとした物、思いついてよ」 言うだけ言って主人は眠ってしまいました 翌日、もはや日課と化した使い魔の仕事をこなしてドッピオは自由時間を謳歌していました 「・・・品評会か」 自分を晒されるようであまりいい気分ではありません それでもやるなら驚かせるようなものをしてやろうと思い芸を考えますが (・・・学院精鋭百人連続で倒すなんてどうだろう) 変なものばかり思いつきます 「・・・やっぱりエピタフを使ったもので・・・」 ぶつぶつ言いながら廊下を歩いていると 「ドッピオー♪」 そう言って誰かが後ろから抱きついてきました。いえ、誰かなんて分かっています 考え事をしながら歩いていたドッピオはその突然のことに対応できず前のめりで転んでしまいました 「っ」 「あっと・・ごめんなさい」 抱きついてきた人はドッピオに謝ります。もちろんその人はキュルケでした 「・・・キュルケさん。いきなり抱きつくのはちょっと」 「そうね。今度からは前からにするわ。ところで」 「・・・品評会ですか?」 「ピンポーン♪ドッピオは何をするのかな?」 はっきり言ってまったく思いつきませんでした 「・・それがまだ」 「えー?ドッピオのことだからすること決まっていたと思ったのに」 残念ながらまったく決まっていません 「・・・手品」 そんな中キュルケの横で黙っていたタバサが口を開きました 「手品?ああ、そういえばルイズが言ってたわね」 現状でなにも芸が無い以上手品程度でしかドッピオには出来ません 「で?どんな手品が出来るの?」 「えっと相手がなにを持っているかとかそういう類のものなら」 事実未来を見えるドッピオにはそれが尤も簡単かつすごいと思わせるものです 「それじゃカードを使った手品をしたらいいんじゃない? カードくらいならルイズだってすぐ用意できるでしょ」 「・・それだ!」 ドッピオはいきなり叫びました 「ありがとうございます!これなら・・・」 そう言ってドッピオは走っていきました。おそらく行き先はルイズの部屋でしょう 「・・・楽しみ」 タバサが小さい声で言いました 「え?タバサ?」 「・・・なんでもない」 「ルイズさん!」 部屋に入りこんで来た使い魔がいきなり自分のことを呼びました 「なに?芸でも決まったの?」 「はい。ところでカードって用意できますか?」 「出来るけど・・・カードで手品でもするの?」 「はい」 言い切りました。ここでキュルケからの提案とかは言いません 言ったら絶対「するな」といわれますから 「カードか。やっぱり手品といえばカードかしらね」 「どうでしょう?用意できます?」 「大丈夫よ、そのくらい。で、すごいのが出来るの?」 「・・・カードが来たら見せてあげます」 (・・そんなに自信があるのなら問題ないかしら) そう思ったルイズは 「分かったわ。カード用意するからすごい手品してよね」 「もちろんです!」 13へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/628.html
爆炎の使い魔 番外編~平行世界では~ 夜の校舎裏で二つの影が対峙していた。 「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール・・・。 誇り高きヴァリエール家の子女・・・。 パイプを吸うやつは近寄らせない、ワインは嗜む程度・・・。 夜11時には床につき、必ず8時間は睡眠をとるようにしている・・・。 寝る前に暖かいミルクを飲み、30分ほど予習と復習をしてから床につくと、 ほとんど朝まで熟睡よ・・・。赤ん坊のように疲労やストレスを残さずに、 朝 目を覚ませるの・・・。」 「それがどうした?『ゼロ』のルイズ。 まさかそんなくだらないことを言うためにわざわざ呼び出したのかい?僕はまたてっきり愛の告白かと。」 「私は常に心の平穏を願って生きている人間、ということを説明しているのよ・・・。 貴方はいつも私をゼロと呼び馬鹿にしている・・・。わざわざ私の目の前で、ね・・・。 それがどれだけ私にストレスを与えているか理解できるかしら・・・?」 「そんなの僕だけじゃあないだろう・・・? 使い魔呼び出せたからって・・・調子に乗ってンじゃあないぞ!!ゼロのルイズ!!」 「そうね・・・確かに貴方だけじゃあないわ・・・今貴方がここにいるのはたまたまなのよ。 たまたま・・・貴方が一番最初に殺される・・・それだけのコトよ。」 「何をワケのワカンネーことを言っている!?君は頭脳がマヌケか!? この僕が!直々に!教育してやろう!」 プッツンした彼は杖を振り上げた。 「焦らないで・・・。私の使い魔・・・キラークイーンと言うのだけれど・・・。 ちょっとした特殊能力があるの・・・。」 「この状況でおしゃべりかい?ずいぶんとヨユーじゃないか!」 「いえ・・・貴方に私のキラークイーンの特殊能力を教えようと思ったの・・・。 だって・・・どーせ貴方は既にキラークイーンによって始末されてしまっているもの・・・。」 「僕が・・・既に始末されている・・・だって?」 「ええ・・・キラークイーンの特殊能力・・・ それは・・・キラークイーンは触れたものはどんな物でも爆弾に変えることが出来る・・・。」 彼の背後に佇む半透明の異形!!それは彼女達の争いが始まった直後から存在していた! 「こ、こいつはっ!?」 「たとえ杖だろーと・・・フフ・・・なんであろーと・・・。」 カチッ! ボグオォォン! 「グベラッ!!?」 「これで・・・また一歩・・・平穏に近づいた・・・ワネ、ウフフ。」 「うっ・・・うぅ・・・。」 「一発では・・・死ななかったのね・・・。」 「なにを・・・されたんだ?僕は・・・一体? どぉーなってるんだぁー!!?た、た助けてくれェー!!」 「だめだめだめだめだめだめだめ! 貴方は死ななくてはならないの・・・。誰一人として・・・ このキラークイーンの能力を知る者はいてはいけないの・・・。 ああ、それと・・・他にも私のことを大っぴらに馬鹿にする連中がいたわよね? 彼らについて聞いておきたいのだけれど・・・。貴方の取り巻き連中の他には誰がいるのかしら?」 「知・・・知ら・・・ない・・・。」 「知らないってことはないでしょう・・・いいかしら? しゃべらなければね・・・貴方の恋人も・・・始末するわよ。」 「なん・・・ッだ・・・と!!ぼ、僕の『ケティ』と『モンモランシー』をッ!!」 「早くしゃべりなさいよ。貴方がしゃべれば何もしないわ・・・モタモタしてると誰かここに来るかもしれないじゃない! 名前だけでかまわないわ・・・早く、ホラ!」 「させ・・ない!この・・・『青銅』のギーシュ・グラモンを甘く見るなッ!!」 ドォン! 「貴方!まだ・・・動かせたの!?青銅を!キラークイーン!!」 。 「いない・・・ワルキューレね・・・あんなボロボロだったのに杖を使えるなんて・・・。」 「誰でもいい・・・ルイズは・・・危険だと・・・伝えなければ・・・。」 「ところで・・・聞こえているかしら、ミスタ・ギーシュ?」 「なん・・・だ?いや大丈夫、位置まではバレていないはずっ!あれは罠だ!」 「貴方は今・・・位置まではわからないハズだ・・・そう考えているのでしょうね・・・。 正解よ。確かに私には貴方がどこにいるのかわからない。そして・・・今が昼だったら・・・ 私の負けだったでしょうね・・・。」 「落ち着け、ギーシュ・・・あれはハッタリだっ!僕は校舎にたどり着ければいいんだ!それだけなんだ!」 「でも今は真夜中・・・他に出歩いている人なんて・・・いないわ。 体温があるのは・・・貴方と私だけ・・・フフッ・・・シアーハートアタックッ!!」 ギャルギャルッ!! コッチヲミロ~!! 「ッ!?なんなんだ!一体!!僕の手がっ!!」 ヲイ・・・コッチヲミロッテイッテルンダゼ 「こ、こいつはッ!コイツはっ!!うわあああああっ!」 ガボオォッ!! 「あごォッ!!」 カチッカチッカチッ・・・カチリ チュドォオオォン!! 「やれやれ・・・ね。まあ・・・地道に探すことにするわ・・・。 私には・・・力があるのだから・・・もう誰にもゼロだなんて呼ばせない・・・。」
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/801.html
夜が明け、新しい朝を知らせる光が、ルイズの部屋の中へ舞い込んだ。 その光を瞼に受け、僕の意識は覚醒する。 開いた目に飛び込んできたのは、女物のパンティ。 それが、昨日までの事が現実であるということを、僕の頭に思い起こさせた。 朝起きたら夢でありますように。と言う僕のささやかな願いは、見事にブチ砕かれた訳だ。 数度、頭を振って眠気を飛ばす。自前の前髪がゆらゆらと揺れた。 隣の毛布を見る。才人がうずくまるようにして寝ていた。 ……起こしてやるか。 「才人、起きろ!」 真横で寝ている才人の毛布を強引に引き剥がす。 「あああ…… 頭いてぇ……」 毛布を引き剥がされ、無理矢理覚醒させられた才人は、まだ眠そうな目で辺りを見回した。そして僕と同じように、夢じゃねぇのかよ。とつぶやく。 しばらく互いに向かい合い、元の世界への感傷に浸った後、才人が口を開いた。 「まぁ、ちょっとした観光だと思えばいいか」 そういう心の持ち方は貴重だな、と思いつつ、この部屋の主であり、昨日、図らずも僕たちの主人となったルイズを起こすため、ベットへ向かう。 まず、軽く揺さぶる。ルイズは殆ど反応しない。 次に強く揺さぶってみた。ううんと唸りはしたが、起きる気配はない。 ……手のかかるお嬢様だ。 僕はいささか間をおき、ルイズの毛布を思いっきり引っぺがした。 「な、なによ! 何事!?」 相当な勢いで引っぺがされたため、強い風を身に受け、何事かと、ルイズは慌てて身体を起こす。 「朝です。ルイズ。起きて」 「はえ…そう…… って誰よあんた達!」 ルイズは未だ覚醒し切らぬと云った感じで、ボーっとしていたが、やがて昨日まで無かった、自分が他人に起こされたということを認識して、昨日までと違う点…… 僕達に怒鳴りつける。 僕は仕方なく、彼女にもう一度名乗りを上げた。 「花京院典明」 「平賀才人」 その名前を聞き、ルイズはようやく昨日のことを思い出した様子だ。 「ああ、使い魔と下僕ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」 少しばかりカチンとくる。昨日もそうだが、下僕とは何だ、下僕とは。態度としては、既に昨日から出ていたので我慢しようと思ったが、こう、改めて口に出されると腹が立ってくる。 僕はなるべく冷静に勤める。 「服」 動詞がないぞ、動詞が! まあそれでも、何が欲しいのかは解る。 近くの椅子にかけてあった、昨日と同じ型の服…おそらくこれがここの制服なんだろう…を持って行き、ルイズへと手渡す。 ルイズは眠そうな目で、しばらくこちらを見つめる。 ……まさか着替えさせてくれなんて、言うんじゃないだろうな。 そう考えている間に、彼女は僕から服へと視線を変え、けだるそうにネグリジェを脱いでいく。 極めて貧弱ゥ!貧弱ゥ!な胸があらわになった。才人はそれを見て、顔を赤く染める。 僕はというと、元の世界でも女の子に囲まれることがそれなりにあったため、才人よりは耐性がある。流石に母さん以外の裸は初めてだが…、こんなまな板では……。どうせならもっとメロンみたいなのがいい。 と思いつつちらちら見てしまう辺り、僕も才人とあまり変わらないのだろう。 「下着~」 「それくらい自分でやれ!」 まさか下着まで取らせようとするとは思わなかった。ここまで恥じらいがないと、さっきまで感じていたことも全て吹っ飛んでしまう。 そんな僕の悪態にも気づかず、ルイズは下着のあるクローゼットの場所を、僕らに話す。 どうやらお構いなしのようだ。 仕方ない。と思い、部屋を見回す。 ……クローゼットには才人の方が近いな。僕はじっと才人を見つめる。 僕の意図を理解したか、才人は露骨に嫌そうな顔をした。 しかし僕は目線を剃らさない。 ほんの10秒ほどで才人の方が折れ、渋々クローゼットの中から適当な下着をルイズに放り投げた。 なにやらぶつぶつ言っているが、こっちまでは聞こえてこない。 ルイズはその下着を着、もう一度、僕らに先ほどと同じ言葉で、命令をしてきた。 「服」 「服なら、さっき花京院が手渡しただろうが!」 「着せて」 呆れた。まさか本当に言ってくるとは。 本当に何なんだコイツは。元の世界に帰る方法を調べる間とはいえ、僕は本当にコイツとやっていけるのか? 才人は、ルイズとなにやら言い争っている。曰く、着替えさせなきゃ、ご飯ヌキだのどうのこうのと。 丁度いい、この間に下着を洗いに行くなど適当な理由をつけて、少し頭を冷やそう。 僕は感情が爆発しない内にと、扉に手をかけ、部屋を出ていった。 「あ、ずりぃぞ花京院!」 「ちょっと! 早く着せなさいよ!」 才人がこちらに気づくも、ブラウスが手にあって追いかけられないらしい。 僕は聞こえないフリをして、部屋を出ていった。 「さて、洗濯場は、確か中庭の辺りだったか」 辺りを見回してみる。 昨日は暗くて解らなかったが、目の前には三つ、先ほど僕が出てきた、ルイズの部屋と同じような素材のドアが並んでいる。 内、一つの扉が、キィと音を立て開いた。 「……ンンッ!?」 そこから現れたのは、メロンの様なおっぱい……あ、いや、燃えるような赤い髪をした、褐色肌の女性だった。 彫りの深い顔。高い身長(僕の目線ぐらいまである。170程度か?)と、しまりの良いスタイル、そしてどことなく漂う雰囲気は、ルイズのそれと、まさしく反対だ。 「あら? あなた確か……ルイズに召喚されて、広場で大暴れした使い魔じゃない」 そういって彼女は僕をじろじろ見る。どうも他人にじろじろ見られるというのは落ち着かない。 「ふ~ん、結構いい男じゃない。ルイズの使い魔にはもったいないわね」 一通り僕を観察した後、彼女はそんなことをつぶやいた。 というか、僕は使い魔ではない。そのことで僕は抗議の声を挙げようとした所で、少し低めの鳴き声が聞こえた。 「ああ、ごめんフレイム。私がここに立っていたら出られないわね」 彼女がどいた部屋から、のっそのっそと出てきたもの。小型の虎ぐらいのサイズの、赤く巨大な蜥蜴だった。尻尾の先はメラメラと燃えている。 そういえば最近やったゲームで、これと似たようなものを見た。 僕はそのゲームに出ていた其奴の名前を、口にした。 「火蜥蜴……か?」 「そう、サラマンダーよ。しかも火竜山脈のブランドもの!」 火竜山脈のブランドものとか言われても、僕にはさっぱり解らない。だが、彼女の自慢ぷりを見るに、凄いものなのだろう。 件の蜥蜴と目があった。キョロキョロとした、サクランボみたいな目だ。以外と可愛いかも知れない。 それはともかく、しばらくここで暮らすんだ。使い魔という誤解だけでも解いておこうと、僕は自分が使い魔でないと言うことを、昨日あったことをふまえて彼女に話した。 「プックックックックックックッ……。つまり、あなたと契約しようとして失敗して、あっちのほうと契約しちゃったって訳?」 話を聞き終えるなり、彼女は笑いがこらえきれないと口元に手を当てる。 ルイズにとっては相当恥ずかしいことなんだろうが、僕には関係ない。 さて、あまり時間を潰していると、部屋から才人達が出てきて面倒なことになる。僕は未だ笑いをこらえきれない様子の彼女を後目に、さっさと階段の方へと歩き出した。 「これはさっそくルイズをからかう必要があるわねッ!」 階段を下りる時、彼女の、そんな意気揚々とした声と、ドアの開く音が聞こえた。 ふと、思い出した。そういえば…… 「……名前、聞いてなかったな」 洗い場に着くなり、冷たい水で、ごしごし下着を洗う。キャンプ経験もあるし、エジプトへの旅の記憶もあるので、仕事は案外、楽に進んだ。 ……人の洗濯物を洗っている時が、こちらに来て一番落ち着いた時と云うのは、どうなんだろうか? ものの数分で洗い物は仕上がる。洗剤でもあればいいのだが、ここでそういうのは期待できないだろう。 ぱんぱんと洗い物の水気を払う。 「…………良しッ!」 さて、頭もすっきりしたことだし、口論も収まっているだろう。 近くにかけてあった学ランに袖を通して、僕は部屋へと向う。 部屋の扉は既に、鍵がかけられていた。周りの部屋からも、人の気配が一切しない。 ここは学校だ。もう授業の時間なのだろう。 しかし、締め出しを食らってしまうとは。なにやら書き置きが張ってあるが、僕には全く読めない。 「仕方ない。『ハイエロファント・グリーン』」 自らのスタンドをしゅるしゅると、鍵穴へと滑り込ませて扉を開く。 部屋の中にはいって、下着を解りやすい場所においておき、また鍵を閉め直す。 また書き置きが目に入る。 引っぺがして、僕はそれをポケットの中につっこんだ。後で誰かに読んでもらおう。 「そういえば昨日、授業中は衛士として、といってたな」 とりあえず、どこかに衛士のたまり場があるのだろう。そこを探せば、次やるべき事も決められるはずだ。 しかし……場所が解らない。 「仕方ない自分で探すか」 この状況、記憶の彼なら、こういうだろうな。 やれやれだぜ。と To be contenued……
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1028.html
ベッドの上で、ルイズ・フランソワーズは夢を見ていた。 舞台は、生まれ故郷であるラ・ヴァリエールの領地にある屋敷。 夢の中の幼い自分は、屋敷の庭を逃げ回っていた。 それは二つの月の片一方、赤の月の満ちる夜のことだった。 真っ赤な真っ赤な…… 血のように真っ赤なお月様が見下ろす夜。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの!? まだお説教は終わっていませんよ!!」 出来のイイ姉たちと比べて落ちこぼれな自分を、 母は、いつも叱ってきた。 母だけではない。 自分の世話をする召使い達も、影で自分のことを哀れんでいることを、 ルイズは知っていた。 その事が、ますますルイズの自尊心に傷を付ける。 その日もまた母親に叱られた。 それが悔しくて、悲しくて、 思わずルイズは屋敷を飛び出したのだ。 使用人達の目を掻いくぐり、いつもそうしていたように、 中庭の池にある『秘密の場所』へと向かう。 そこは、幼い頃の自分が唯一安心できる場所だった。 あまり人の寄りつかない中庭の池には、小舟が一艘浮かべられている。 昔は家族で舟遊びをして楽しんだものだったが、 時とともに皆離れていった。 この場所に気を留めるものは、もはやルイズしかいないのだった。 夢の中の幼い自分は小舟の中に忍び込み、 用意してあった毛布を纏って、息を潜める。 しばらくそんな風にしていると……霧の中から、 マントを羽織った1人の立派な貴族が現れた 「ルイズ、泣いているのかい?」 つばの広い帽子をかぶっていたので顔はよく見えなかったが、 ルイズはその貴族が誰だかすぐにわかった。 最近、近所の領地を相続したという子爵。 「可哀想に。 また怒られたんだね……」 幼いルイズにとって、憧れの人だった。 近所だったから晩餐会を共にしたこともあったし、 また、父と彼が交わしたある約束も相まって、 ルイズとその子爵は、会う度によく話をしたものだ。 「僕の可愛いルイズ。 ほら、僕の手をお取り。 もうじき晩餐会が始まるよ。 ……安心して。 お父上には、僕からとりなしてあげる」 夢の中の幼い自分は、恥ずかしそうに頷いて立ち上がり、 子爵の手を握ろうとした。 ……が、ルイズがその瞬間、子爵の手がすうっと引っ込められた。 意外な対応に、幼いルイズは当惑する。 それは、夢の中の出来事をぼんやり俯瞰していた現実のルイズも同様だった。 ―――あれ、何だか変だな? この後確か、子爵と共に晩餐会に向かった筈なのに……。 夢と現と、両方のルイズが混乱する中、顔の隠れた子爵が語り掛ける。 「そうだ、ルイズ。 君に見せたいものがあるんだ」 現のルイズが未だに当惑する一方で、 夢のルイズは、子爵を信頼しきった表情で答える。 「まぁ、子爵様。 一体何を見せて下さるの? 楽しみだわ」 子爵は大仰に一礼して、マントを翻した。 「ルイズ、僕のルイズ! とても素晴らしい物だよ。 きっと、我を忘れてしまうほどに! だから、7秒だけ待っててくれるかな?」 は?7秒? ますますもって分からない。 直ぐに持って来たいのは分かるが…… どうしてわざわざ正確な所要時間を言う必要があるのか。 しかもやけに短い。 2人を俯瞰していた現ルイズは、途方もなくいやな予感がし始めた。 そんな現ルイズの不安をよそに、子爵の姿が一瞬で掻き消えた。 『見せたい物』とやらを取りに行ったのだろうか。 そりゃあ、7秒しかないのだ。 急ぐのは尤もだが……素早すぎやしないか? ~1秒経過!~ 「子爵様ったら。 私のために、あんなに一生懸命になられて……」 しかし、夢ルイズは全く疑ってすらいないようだ。 ~2秒経過!~ ……マズい。 これはマズい! 何だかとてもマズい気がする! と、現ルイズ。 ~3秒経過!~ 「子爵様が見せたい物って、一体何かしら?」 と、夢ルイズ。 ~4秒経過!~ 逃げろ。 逃げるのよ、私!! 何やってるの、早く逃げるのよ! と、また現ルイズ。 ~5秒経過!~ 「子爵様のことだから、 本当に我を忘れてしまうほどの物なのだわ……」 ~6秒経過!~ 緩みきってるわね、夢の中の私。 しかし待て夢ルイズッ! 何かただならぬ事がッ! 起こっているのよォオオッ! ~7秒経過!~ 「待たせたね。 上を見てごらん、可愛いルイズ」 夢の中のルイズは、弾かれたように空を仰いだ。 果たして空中には、夢ルイズが乗っている小舟なんかとは比べ物にならないほど大きな物が浮いていた。 馬車のようにも見えるが、 見る者に威圧感を与える凶悪なフォルムをしている。 黄色を基調とした車体の前後には、 ぶっとい石の円柱のようなものが付いていた。 馬車にしてはやけに重そうだ。 馬数頭ぐらいでは、ビクともしなさそうなほど。 その上には子爵が乗っかって、夢の中のルイズを見下ろしている。 その馬車の異様な巨体に、夢と現と、 ルイズは揃って我を忘れた。 無論感動したからではない。 絶望したからだ。 今あれは宙に浮いているが、 やがて重力の法則に従って墜落してくるだろう。 そうなったらどうなるか……。 答えはもうすぐ分かる。 だって、今まさに、あの巨大な馬車が、 夢の中のルイズを乗せた小舟めがけて、落下を始めたからだ。 ふと、落下による風に吹かれて、 子爵の帽子が飛んだ。 「あ」 ルイズは短い声を上げる。 いつの間にか夢と現とが重なり合い 舞台にいるルイズは、6歳から16歳の今の姿になっていた。 そして、帽子の下から現れた顔は憧れの子爵などではなく、 使い魔の……ちょっと髪型だとか、唇の色だとか雰囲気だとか色々変わってるけど…… DIOであった。 ふと目が合う。 DIOは見たこともないほど興奮した笑みを浮かべた。 突如夢の中に乱入してきたDIOは、 奇妙で巨大な馬車に乗って落下しながら、 現実世界ではルイズすら聞いたこともないほどハイテンションな声を上げた。 「ロードローラーだッ!!!」 なんじゃそら、と突っ込む暇など、 もちろん無かった。 DIOが乗っかった馬車が、小舟を直撃したからだ。 ドッバァアアン!という、凄まじい水しぶきと共に、 小舟がバラバラになる。 その小舟ごとペッシャンコになったかと思われたルイズだか、 意外なことに生きていた。 馬車の円柱に、無様な格好でしがみつく。 うまく難を逃れたかに見えたルイズだが、 今度は馬車もろとも、どんどん水中へと沈んでいってしまった。 何とか身を捩って脱出しようとするが、 DIOがそれを許さない。 ガンガンガンガンガンと 車体を殴り付けて沈没を助長する。 ……器用なことに、右は肘、 左はグーと使い分けていた。 「もう遅い! 脱出不可能よッ!」 夢の中なので、水中でも何故か叫び声を上げてくるDIO。 まさしくDIOの言う通りなのだが、 せめてささやかな抵抗くらいさせて欲しい。 だが、 「無駄無駄無駄無駄無駄 無駄無駄無駄無駄無駄ァッ!!」 「無理無理無理無理無理 無理無理無理無理無理ィッ!!」 現実は……夢か?どうでもいいけど…… やはり非情だった。 抵抗むなしく、グングンと湖底が近づいてくる。 このままではペッチャンコだ。 それにしても、夢の中の使い魔はとんでもなくハイだ。 ひょっとしたらこれがアイツの本性なのだろうか。 そう思う間に水圧が体の自由を奪い、ついに身動きすら取れなくなってしまった。 万事休す。 湖底は目と鼻の先だ。 そのことはDIOも承知なのか、 ダメ押しとばかりに渾身の一撃を打ち込んでくる。 「8秒経過! ウリィイイイヤァアアッー! ぶっ潰れよォォッ!!」 今更ながらのタイムカウント。 しかし凄い。 たった1秒の間なのに、こんなたくさんの描写があるなんて。 さすが夢だ、突拍子もない。 なんて考えていたら、ドグシャァア!と着地の音が聞こえて、 砂利が水中に舞い上がる。 こうして夢の中のルイズは、 地面とロードローラーとに挟まれて、哀れにもサンドイッチになってしまった。 「9秒経過……!!」 DIOのタイムカウントを餞に、私は夢から逃走して目を覚ました。 ―――――――――― 巨大な何かに押しつぶされる夢を見て、 ルイズ・フランソワーズは目を開いた。 あまりにも夢見が悪くかったので気晴らしに伸びをしようとしたが、 何故か体が動かない。 ベッドに横たわったまま、一体どういう事かと、寝ぼけ眼を擦って己の体に目をやるルイズ。 なにやら布団の下に、ゴツゴツした感触がいくつもある。 布団をめくってみると、いかにも重そうな魔法関係の本が、 所狭しとルイズを圧迫していた。 先程の夢はこれのせいか。 それを見て、昨日勉強をしていてそのまま寝入ってしまったことを、ルイズは思い出した。 しかし、ルイズには布団をかぶった記憶などなかった。 なら、この布団は一体誰が掛けてくれたのだろうか……? 取り敢えず布団をのけて、身を起こす。 分厚い本が、バサバサと床に落ちていった。 ルイズは嫌な予感と共に、 ゆっくりとソファーの方を向いた。 そこにはDIOがいた。 ルイズより先に起きて、本を読んでいる。 ルイズが起きたことに気づき、DIOは顔を上げた。 「起きたか。 今日は随分と早いな」 確かにまだ部屋は薄暗い。 とは言っても、DIOを召喚してからというものの、 ルイズの部屋はいつも薄暗かった。 どんなに爽やかな朝だろうと、 蝶々がチューリップにキスをするようなきらめく昼下がりだろうと、 日が出ている間はルイズの部屋は、 窓もカーテンもピッチリと閉められている。 ルイズは太陽が大嫌いになっていた。 何というか、慎みの感じられない、ハナにつく明るさなのだ。 今のルイズは、月明かりの方が断然お好みだった。 それはさておき、ルイズはベッドから立ち上がり、 布団を掴んでDIOに見せた。 「ねぇ。 これ、ひょっとして、ひょっとするんだけど……」 認めたくない現実に果敢に立ち向かうルイズに、 DIOはさも当然と頷いた。 「私が掛けた」 ルイズは思わず布団を取り落とした。 布団がパサッと床の本の上に落ちたが、そんな事全然気にならなかった。 感動で震える両手を、自分の頬に添える。 手のひらから伝わる、若干火照った頬の感触。 不覚にもルイズの胸はきゅんとなっていたのだった。 ……ウソ。 なんて事。 いやあね冗談に決まってるわなんでコイツったらいきなりそんな使い魔の鏡みたいな真似を白々しいったらありゃしないわ そういえば近頃私ったら魔力上がってるしもしかしてとうとうコイツ私の軍門に下ったというわけかしら でもでもでもイキナリこんな甲斐甲斐しく接してくるなんておかしいわ不自然よひょっとしてコイツってば あああダメよいくら私が前途有望でプリティな女の子だからってつつ使い魔と御主人様なんだからそんなのダメよ!! …………でもコイツ、本はどけてくれなかったわ。 散々1人でヒートアップしたルイズだったが、 そう考えると今までの興奮が一気に冷めてしまうのだった。 途端に口をへの字に曲げ、白い目でDIOを見る。 「あのね。 布団を掛けてくれたのはスゴ~く有り難かったんだけど…… それならまず最初に本をどけなさいよ」 「てっきり本に埋もれて眠るのが好みなのだと思って、 そのままにした」 ルイズは怒鳴った。 「本まみれで寝るのが好きな奴なんているわけないじゃない!! ……1人心当たりがあるけど。 っとにかく! 潰れちゃうかと思ったわよ、ほんとに!」 ほんとにふんとに。 ギャースカ喚いてみせても、DIOは笑って受け流してしまう。 結局からかわれていただけだったのだ。 一瞬でも胸きゅんしてしまった自分が恥ずかしくて、 ルイズは悶えた。 どうにも近頃、自分の使い魔は陽気だ。 それはおそらく、ようやっとコイツが服を着るようになった頃からだ。 私がせっかく選んでやったレディーメイドは気に食わなかったようで、 勝手に注文していたのいやがったのだ。 コッテリ叱りつけたのだが、馬耳東風、DIOに説教。 素知らぬ顔をされてしまった。 ちぇ、服を着たぐらいでテンション上がるなんて、 まるで子供じゃない。 そう思って、ルイズは先ほどの夢を思い出していた。 あの、異様にハイだったDIOの顔を。 ちらっと奴の顔を見る。 そういえばコイツ、フリッグの舞踏会で私と踊った時も、 いやに紳士然としてたわね。 ……なるほど、そういうことか。 ウシシ……と下品な笑みを浮かべて、 ルイズはDIOの肩を叩いた。 「ねぇ、DIO」 「……?」 「あんたって、実は結構ノりやすいタイプでしょ」 藪から棒なルイズの指摘に、 DIOは驚いたような、困ったような、複雑な顔をした。 【DIOが使い魔!?】 第二部 『ファントム・アルビオン』 to be continued…… 戻る 50へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1079.html
東の向こうから昇ってくる朝日が、夜の闇を鮮やかに消し去っていく。 まだ夜の名残を残す冷たい風の中を、追跡隊四人とフーケを乗せたシルフィードは気持ちよさそうに飛んでいる。 フーケは口の中に布切れを詰め込まれた上で猿轡を噛まされ、後ろに回された両手は波紋を流された彼女自身の髪で親指同士をガッチリ結ばれてた上でロープを巻かれている。足首も同じく波紋の髪とロープで拘束されているが、しばらくは意識を取り戻す気配すらない。 残りの四人も、夜を徹しての追跡行と先程までの戦闘が終わったという気の緩みで例外なく生欠伸を噛み殺しつつも、学院への帰還の途に着いていた。 「あ~~~~~……どうもあれじゃの、年寄りには徹夜が一番堪えるわい」 この戦いで大量の波紋を消費したジョセフは、襲い来る眠気に苛まれながら横にいるルイズとキュルケに目をやった。 今はジョセフを中心にして左にルイズ、右にキュルケという形で座っている。タバサは一人前に座ってシルフィードを操っている。三人と一人の中央にフーケを転がしているという状態だ。 「それにしても……ルイズの爆発があんなにすごいだなんてわかんなかったわ。それもダーリンのアシストがあったからだけど」 ルイズを誉めてるのかバカにしてるのか判らない様な物言いにも、ルイズはまだ夢でも見ているような表情でこくりと頷いた。 「あれ……本当に、私がやったのよね」 もう何度目になるかも判らない呟きに、ジョセフは苦笑しながら頭を撫でてやった。 「ああ、大丈夫じゃ。お前があのゴーレムをブッちめたんじゃぞ、ルイズよ」 あまりにも信じられない出来事に、まだ現実を現実と認識し切れていないようだった。 それもしょうがないと言えばしょうがないことではある。 常日頃から『ゼロ』だの『無能』だの言われ続けてきた彼女が、ジョセフやキュルケやタバサでさえ決定打を与えることの出来なかったフーケのゴーレムを撃破したのだ。 それは正確には系統魔法での破壊ではないし、学院の生徒達に言っても信じる者はいないと確信できるほど突飛な結果ではある。 だが、ルイズには十分すぎる結果だった。三人のアシストを受けたとは言え、失敗魔法とは言え、ハルキゲニアの貴族達を翻弄した土くれのフーケを捕らえることが出来た。彼女にとっては世界を揺るがすほどの大戦果である。 しかし。 ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールは、それを素直に喜べるほど間抜けでも恥知らずでもない。喜びに浸る前に、どうしても心に引っ掛かる小さな棘を意識せずにはいられないのだ。 確かにフーケは捕まえられた。でも、あそこで。ジョセフとキュルケの邪魔をしていなければ、もっと簡単にフーケを捕まえられていたはず、という事実は、少女の胸を締め付ける。 ここでそんなことに触れないで、何事もなかったかのように喜びに浸ることは出来ない。 ルイズはしばらくの間、落ち着きなさげに三人の仲間達に視線をめぐらせてから、意を決しておずおずと口を開いた。 「その……ええと、あの……みんな……ごめんなさい。本当は、私が邪魔しなかったら、もっと簡単にフーケを捕まえられてたと思う……」 やっとの思いで呟いた謝罪の言葉の後、自分がどうにも足手まといだったのではないか、という思いがより深く少女の顔を伏せさせる。 「みんなが喜んでくれるのは、嬉しい……けど、でも……」 再びジョセフにキスされて舌入れられそうな言葉を言おうとしたルイズの言葉を遮ったのは、ジョセフではなかった。 「こーらルイズー? そういうのは言いっこなしだって言ったでしょ?」 ルイズの前にやってきたキュルケが、彼女の頭を抱き寄せて自分の胸に埋めさせたのだ。 「むー!? な、ちょ!」 大平原と高山の違いを見せひらかされたルイズのテンションは、すぐさま怒りに転じた。 だがキュルケは、普段のようにルイズをからかう口調ではなく。まるで子供に優しい言葉を掛ける母のように、微笑を浮かべながら言葉を紡いでいく。 「私は気にしてないし、ダーリンやタバサだって気にしてないわよ。結果的に言えば、あたしとジョセフだけで捕まえるよりも、ルイズが……ううん、みんなであのゴーレムをやっつけた方がきっと一番よかったと思ってるわ。 確かに大変だったけど、得た物だって沢山あったじゃない? ほら例えばルイズとダーリンの見ててこっぱずかしい愛の告白とかすっごいベーゼとか」 下から飛んできたアッパーを、キュルケは余裕のスウェーバックで避けた。 「あっ……あんた……!」 先程までのしおらしい空気は何処へやら、普段通りの睨みつける表情…ただし顔の赤みは特注品で、キュルケに怒りを向けた。 しかしキュルケはなおも楽しげに笑うと、ルイズを再び褐色の谷間に埋めた。 「終わりよければ全てよしって言うじゃない? あんたとダーリンの信頼関係も築けたし、私達の間だって十分すぎるほど築けたわ。他の誰かさんが今夜の出来事を全部信じるとは思えないけれど、私達はそれを目の当たりにして、フーケを捕らえたのよ。 私達の間じゃ、あんたは『ゼロ』のルイズじゃなくなったってコト。それはきっと何物にも得難い宝物なんじゃないかしら。そうは思わない?」 よしよし、と子供をあやすようにルイズの桃色の髪を指で梳くキュルケ。 ルイズはなおもじたばたしていたが、横目で見ていたジョセフは(うっわわしも埋められてぇー)と思うと同時に、えらく堂に入った慰め方じゃのうと感心もしていた。 ただ単に男好きな少女なだけではないのと、ルイズを優しく見守っているその姿勢。ジョセフの中でキュルケの評価が大幅に上方修正されていた。 「それに」 不意にタバサが後ろを振り向き、口を開く。 何事かと思わず注目する三組の視線にも頓着せず、彼女は淡々と言葉を続ける。 「それを言うなら私達も貴方達に謝罪しなければならないことがある」 頭にクエスチョンマークを浮かべる三人に、ぽそりと呟いた。 「実は武器屋でハーミットパープルを使うのを覗き見したのを黙っていた。ごめんなさい」 事実だけを述べて深々と頭を下げたタバサを見て大慌てするキュルケ。 「え、ちょ、タバサ!?」 鳩が豆鉄砲食らった顔をしているルイズとジョセフを交互に見た後、キュルケも意を決して勢い良く頭を下げた。 「えっと、あの、ごめんっ! 実はルイズとダーリンがどこかに出かけるのを見つけたから、タバサに頼んで尾行してたんだけど……あの、タバサは悪くないの! 私が嫌がるタバサを無理矢理連れてってたから、タバサは巻き込まれたというか不可抗力と言うか……!」 二人の言葉に「OH MY GOD」と心の声が聞こえるくらい天を仰いだジョセフ。 (おいおいおいおい、それはねえと言うか何と言うか! 読心能力まで見られてたとか! まあ親父脅したのはともかくとして……なんかわしが二人を信用しきってないから読心使わなかったとか思われてたりせんじゃろな!?) 今の段階では、赤の他人の心を読むには本人自身か、極めて本人に近い物体を媒介として用意しなければならない。フーケの残した土くれでは念写は出来るが読心は出来ないため、特に使わなかったのだが。 ジョセフは皺の寄り切った眉間に当てていた指を離すと、大きく頷いた。 そして右手からハーミットパープルを伸ばすと、自分の喉に緩く絡みつかせてから、三人の耳元に茨の先端を這わせ、押し付けた。さっきも使った骨伝導である。 もしかしたらフーケに聞かれるかもしれない、という用心の為でもあるが、より「内緒話」感を強くするのも念頭に入れている。 「よし! もうハーミットパープルについちゃわしらだけの秘密にしよう! 今ハーミットパープルを知ってるのはわしらとオスマン学院長くらいじゃしな! で! 読心能力はこの身内には決して使わない! 自分の心の中を覗かれて平気でいられる人間はおらんしの! プライバシーの侵害になっちまうからのッ!」 心の中に隠していることを全て知られる、というのは随分と恐ろしい事である。三人は想像の範囲内ながらも、もし自分の心が人に知れたら……と考えて、その恐ろしさに身の毛がよだった。 こくこくこく、と一も二もなく頷く三人。 「どーやらスタンドどころか波紋もあまり見せちゃいかんようだったが、もう波紋であれやこれややっちまったからそれはしゃーないッ。ただハーミットパープルのことは他言無用っつーことでな。オーケー?」 全員でこくりと頷いた。 「よし。んじゃそーゆーことでヒトツ。ルイズもキュルケもタバサもそれぞれきちんとゴメンナサイしたことじゃし、これで水に流しちまおう。なッ?」 これで一件落着……となるはずだった。が。 「うふふふふ……それで終わりだとか思ってるワケじゃないわーよーねー、ジョーセーフ?」 まだ終わっていない人がいた。 我らが『ゼロ』のルイズである。 「フラチにもご、ご主人様にッ……あああ、あんな、きききキス、するだなんてッ……!」 乙女にとってキスとは神聖不可侵な問題である。 ファーストキスはまだしょうがないとしよう。しょうがないのだ。 だが、あのキスは。セカンドキスを奪われた上に。 「しっ……ししし、舌まで入れるだなんてッ……!!」 ゴゴゴゴゴ、と特徴的な書き文字をバックに肩を震わせるルイズ。 ジョセフの卓越した危機感知能力は、命の危険を判別したッ! 「……ま、待てルイズッ! ここはヤバいッ! 落ちたら死ぬからッ! な! 落ち着けッ! むしろ落ち着いて下さいッ!」 全身全霊で命乞いをするジョセフに、ルイズはゆらりと杖を振り上げた。 (何が一番許せないって――!!) キュルケも死ぬ気でルイズを羽交い絞めにするも、ルイズの詠唱は止まらない! (ちょっと気持ちよかったのが、一番ムカついたッッッ!!!) 「ハ、ハーミットパープルッ!!!」 「帰ってから! 帰ってからになさい! ね!?」 「ムゴゴッ! ムゴ、ムゴーーーッッ!!!(離しなさいよ! 離しなさいってば!!!)」 後ろで巻き起こる大騒ぎから、前に視線を戻したタバサの唇には。 小さいけれど、確かな微笑みが浮かんでいた。 To Be Contined →
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/28.html
「おまえ…おまえはッ」 「シィッ!!」 ビシィッ 仗助の前に現れた少女は 持っていた棒状の教鞭か何かを近場の棚に叩きつける 家畜か何かをしつけるように 「使い魔がご主人様をおまえ呼ばわり? ブンザイをわきまえなさいッ」 「ええ? ああ、いや、アンタは…」 (確かこいつはイキナリ目の前にいて オレの髪型をバカにしやがった でもそのあと なんだかんだでオレをかばって大ケガをしてたよな うーん やっぱり状況つかめねェ~~ッ) そのとき言葉は通じていなかったのに 髪型をバカにされたことだけはハッキリわかっている仗助だった ある種の原始的な才覚なのである … ハッ!! 「髪型ッ!?」 仗助は気づいてしまった 「あしたのジョー」みたいに片目が髪で隠れてる ヘンな赤毛の女にサンザッパラ焼かれたのはドコだっけ? あとで出てきたバーコードハゲ(もっとハゲてたかも)にも ケッコーひどいことやられた気がする 「鏡だ、鏡は…鏡ッ」 「ちょっと、ご主人様を無視してんじゃ」 「どこかって聞いてんスよォォォ―ッ 鏡ィィィィ―――ッ!!」 185cmの大男に掴みかからんばかりの勢いで迫られる これで身の危険を覚えない女がいるか? さっきのやたら張り切った強気はどこへやら 少女ことゼロのルイズは反射的にすぐそばを指さした (よく見れば気づかないワケないでしょ) 彼女の心中は呆れと恐怖が半ばであった ホントにコレと「契約」してよかったのか? そのためにあげたモノがモノなので 後悔と情けない気分もドンヨリミックスされていた 召喚したときに来ていたオカシな服はあのメイドに預けてあり 今、男が着ているのは、ルイズがとりあえず急ぎで仕立てさせたシャツとズボンである そして、この世界にいる誰もが知らないことだったが 男、仗助の今の姿は、彼の父ジョセフ・ジョースターの生き写しそのものであった …つまり 「こっ…こいつは~~~~~~」 ドォオ―z_ン 「うおわあああああああああああああああああああ」 仗助の髪の毛はハデに減っていたッ ハゲているというほどのことではないが 自慢の髪型、リーゼントに戻すにはあまりに不充分ッ 「お、おれの髪、髪ィィィィッ」 「髪? 真ッ黒コゲだったからメイドに手入れさせたのよ。 あのヘンな、ハリボテみたいな頭に未練でもあるわけ?」 「髪…………」 知るよしもない以上 それは避けがたい不幸であったのかもしれない だが、それでも このルイズにあとわずかでも注意力があったならッ 男が怒りちらした理由をもう一度考え直してみたのならッ 「オレの、髪が…なんだって?」 「…な、なによぉ?」 プッチ~~ン 「ドラドラァ」 ドガ バキ スココン ゴスン ゴスン 「ぶっ、きゃうぅぅ~~~ッ」 ボゴオォン ドアを破って外の石壁に頭をゴツン!! そのままルイズはキュウと伸びて動かなくなった 「……」 いつも通り 絶好調にブッ飛ばした仗助 しかしッ 「…あッ……」 (ヤベえぇぇ―――ッ!! まだ何も聞く前にブッ飛ばしちまったッ 待て、そーいう問題でもねー いくら髪をバカにされたからって 「年下」の女ブン殴るのはどうよ、オレ) 毎度の後悔 仮に相手が三歳のガキでも彼はやる そして頭を抱えるのはいつもやってからだ 手首を欲しがる殺人鬼がいるように その行動に理屈はない 本能なのだ 「だが安心だ こういうときのための、あの力だぜ…」 なんでも元通りに「なおして」しまうパワー これがなければ彼はとっくに少年院に入っていただろう どんなにキレてブチのめした相手も、これ一発で全快する いつものそれと同じ感覚で、今日も仗助は手で触れた ドアの破片ですり切れてしまったのだろう、少女の頬や手の平に …えっ? 異変だった こんなことは今までなかった 「なおらない…だと?」 何度触れても同じだった わずかににじんだ血が手につくだけで 傷は元通りにふさがっていかない 「いったい…?」 試しにドアをなおしてみると 破片はキレイに集まってゆき 何ごともなかったように、ただの一枚のドアに戻った 「ドア…は、なおる!! じゃあ、こいつはどうして…」 ひとつ思い当たる、最悪の可能性に つぶした虫をなおしたときのことを仗助は思い出していた すなわち 「…グレート まさか、なんてこったよ…」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 死んだ者はもどらない 失った生命が戻ってくることはない 虫のときはそうだったが 人間相手でもそうなのか? だが、だとしてもおかしい それでも、傷がなおらないなどということは無いはずなのに 「生きてるか、死んでるか…」 確かめなければならない 指についた血を近場の壁でぬぐう それで小さくピースマークを書いてみた (ま…平和のマークっつーんならよォー ご利益あるよなぁー) そして、ぬぐった後の指を二本 少女の鳩尾の少し上あたりに当てる 幸いにしてブラウスの生地はさほど厚くない (…でも、これじゃ心臓の動きなんてわかんねェ~ 直接さわって確かめろっつーのかよ、おいッ) それではまるきりドスケベ野郎だッ だが、かかっているのは人の生命 死んでからすぐになら、まだ蘇生できるかもしれない 「なら、やるしかねぇってことだよなぁ~」 経緯はどうあれ 彼の心意気そのものは賞賛されるべきものだろう つまらない羞恥心とはいえ、あっさりとは捨てられないものだ だが彼は焦りすぎた、急ぎすぎたッ 心臓よりも先に、彼は「呼吸」を気にするべきだったッ!! 息づかいに耳をすますべく顔を近づけたのだったら 少し頬を赤らめた少女に突き飛ばされるくらいで済んでいただろうのにッ パチッ トートツに目を覚ました少女ルイズが見たものは 倒れた自分に覆いかぶさり 手を左胸に伸ばしてくる大男の姿だった 「あ、生き…」 ギラッ 「……あ…これは… その…よォ……ハハハ… …グ、グレート」 照れ笑いでどうにかなると、思ったか? 「くォの、ド変態ッ!!」 ドゴッ ガスッ バキャキャ ドズッ ドズッ ドボォ 顔面ストレートッ マウントポジションッ 殴打ッ 殴打ッ 殴打ッ 金的ッ 金的ッ 金的ッ 「ぐえええッ」 仗助の頭は真っ白になった 8へ
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/516.html
しばらくして、朝食を終えた生徒達が教室へ移動を始めた。 キレた目をしているルイズもディアボロを連れて教室へ向かった。無言なのが怖い。 教室には、生徒達が召喚した様々な使い魔が居た。 しかし、教室の椅子は貴族の席であり、ディアボロが座る席など存在しない。 仕方なしに、ディアボロは教室の一番後ろに行き、壁を背に立ち続ける。 その後シュルヴルーズという土系統のメイジの教師がやって来て、 生徒達が一年生の時、学んだ魔法の基礎をおさらいさせる。 魔法には四大系統というものがある。 『火』『水』『土』『風』 そして失われた伝説の『虚無』 等の話はディアボロの興味を心地よく刺激しており。 それに、教師が石ころを真鍮に変えた時はさすがに目を剥いた。 (そう言えば…使い魔が選ばれる理由は…) 召喚された直後にU字禿教師が言っていた事を思い出す。 『…現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、専門課程へ進む・・・』 キュルケのサラマンダーはどう見ても『火』以外ありえない……ならばキュルケは『火』の系統なのだろう。 (どおりで嫌な感じがしたわけだ) とすると、あの教師の言う通りならば。 ここに召喚されている生物は、ほぼ全てが四系統の属性に分類されるはず。 (では……私は何系統なのだ?) 火・水・土・風・虚無。ディアボロの持ち物はほぼ全ての系統に当て嵌まっていて。どれか一つに分類する事が出来ない。 「ふむ」 ディアボロが考え込んでいる最中、教室が突然騒がしくなった。 その原因は、ルイズが前に出て錬金をやる事になったからである。 (……あれが何系統なのか判断できれば、私の系統も逆説的に分かるはずだ) ディアボロのちょっとした興味。 何系統として呼ばれたのか。ほんのちょっとした好奇心 だが、ルイズの一挙一動を見守るディアボロは、生徒達や使い魔達が机の下に入ったり、教室から飛び出たのを見えていなかった。 ルイズは石に向かって杖を振り―――― ドッゴオォン! 爆発が起きた。 反応が遅れたディアボロは、その爆発をまともに……くらわなかった。 起きた爆風は、ディアボロの体に到達する前に和らぎ。 散弾銃のような小石は体に接触する寸前、燃え尽きた。 ほんの掠り傷程度ですんだディアボロだが。 彼は呆然としていた。 「な、んだと?」 爆心地はルイズ。 それを見た彼は、記憶の中のトラウマの一つが浮かんできた 『何かのアイテムが爆弾になったかも…う~むどうだったかな……?自信がない…』 この後、ディアボロはルイズの二つ名を脳裏に刻み込む事となった。 ドット!ライン!トライアングル!スクウェア!そのランクの中で、 一番下のドットにすら及ばない、魔法は使えるが何時も爆発を起こすメイジ。 成功率ゼロ!だから『ゼロ』のルイズと呼ばれている事。 そして――メイジの実力は召喚される使い魔にも反映されるらしい事。 それを聞いたディアボロは、何故ルイズに召喚されたのか納得した (私も最初は無能だったからな) ディアボロは、奇妙なダンジョンに初めて潜った時の事を思い出した。 無装備状態で手探りしながら迷宮を進み、罠や敵の手、それに自分のちょっとしたミスで何回も何回も死んだ記憶。 …………それでも、遅々とした足取りの中で実力を着け、ダンジョンを制覇した誇らしい記憶。 (これからの成長に期待と言う事か) 授業終了後、ディアボロがキュルケからそのルイズの話を聞いていると、 噂をすれば影とばかりに、その本人が不機嫌ですと顔に書いてやってきた。 「ちょっと!私はキュルケに近付いちゃ駄目って言ったわよね!?」 「硬い事言わないでよルイズ、私はアンタの二つ名を懇切丁寧に説明して上げてただけだから」 「よ、余計な事しないで!こいつは私の使い魔!あんたは関係無いでしょ!」 自分の不名誉な二つ名が知られた事を知って、顔が赤くなるルイズ。 面白そうな顔でそれを見つめていたキュルケだが。 さすがに、飽きたのか颯爽とその場を離れて行った 「じゃあね、食事に遅れるから私はそろそろ行くわ」 そして残されたルイズは、いきなりディアボロの足に蹴りを入れた しかし、その一瞬、ディアボロの周囲に砂が集まって、ルイズの蹴りを明後日の方向に受け流した。 ズダン。 滑ったルイズは華麗に転倒した。 「…何をする?」 「うるさいッ!」 不思議そうに尋ねるディアボロに罵声を返すだけのルイズ。 頭に血が昇ったルイズは、さっきの砂が集まった異常な事には気付いていない。 何も無いところで滑って転んだと言う無様な記憶だけである。 そのまま、体の埃を払うと教室を出るルイズとディアボロ。 食堂への途中、ルイズはディアボロの表情の変化に気付いた。 含み笑いをしている。それがルイズの勘に更に障った。 「なに笑ってんのよ!」 「何も笑ってはいないが?」 「笑ってた!」 「ふん?……まあ、いい。話は変わるが… お前は昨日メイジの誇りを熱心に語ってくれていたな…… それでだが、自分が魔法を使えないのはどう思っているんだ?」 言葉に詰まるルイズ。 「魔法が使えない無能の癖に、お前が言う平民で変態の私から貴族として尊敬されると思っているのか?」 「私だって…私だって努力はしてるわよ!ディアボロ!あんた、ご飯抜きだからね!覚悟しときなさいよ!」 涙が滲む目を向けながらも、捨てゼリフを残すとそのまま目の前の食堂のドアに飛び込んで行った。 「さっきの言葉は流石に厳しかったか?」 ディアボロなりに発破をかけたつもりだが、ルイズは想像以上に痩せ我慢をしていたようだ。 そしてディアボロは、食堂に入らなくては昼食を食べられないという事に溜め息をついた。 このままだと餓死する。さりとて、DISCの無駄な消費は避けたいとディアボロが悩んでいる時。 「あの……どうかなさいました?」 声がかけられた。 振り向くと、そこには夜空に輝く無数の星と同じ数ある男のロマンの一つメイドさんの姿をした少女。 「何でもないが……」 「もしかして、貴方はミス・ヴァリエールの使い魔になったって噂の平民の変態の……」 平民の変態発言を軽くスルーするディアボロ。指摘してもどうにもならないって事もあるが。 「お前もメイジなのか?」 「いえいえ、私は違います。普通の平民です。 貴族の方々をお世話するために、ここでご奉仕させていただいてるんです」 普通のと言う所を強調して発言するメイド。 そこまでして、ディアボロと同じだと思われたくないのだろうか。 「…………」 「私はシエスタっていいます。貴方は?」 「ディアボロだ」 「そうですか…それで、ディアボロさん。 こんな所でどうしたんです? 本当に何もお困りでないんですか?」 シエスタの目を見るディアボロ 腹に一物を隠し持ってはいないようだ。純粋な親切心から彼に声をかけたのだろう。 (これは、昼食の代わりを用意してもらえるか?) 「昼食を抜かれてしまってな」 「まあ!それはお辛いでしょう、こちらにいらしてください」 ディアボロがこっちに来て初めて出会った貴族以外の人間。 シエスタの対応を見て、何となく利用できそうだと外道チックな事を考え始めていた。 <<前話 目次 次話>>